面白い映画には愛を捧げ そうでない映画には鉄槌を下す
たいむぽっかんの
ぶっちゃけCINE TALK!!!
●今日のちょい気になることシネ言
「感動を押し売りした映画で泣いたためしがない」
シネトーク149
『アウトロー』
JACK REACHER
監督・脚本:クリストファー・マッカリー 原作:リー・チャイルド 製作・出演:トム・クルーズ
出演:ロザムンド・パイク/リチャード・ジェンキンス/デヴィッド・オイェロウォ/ヴェルナー・ヘルツォーク/ジェイ・コートニー/ジョセフ・シコラ/ロバート・デュヴァル
2012年米/パラマウント/130分/シネマスコープサイズ/パラマウント配給(2013年2月1日公開)
●作品解説
リー・チャイルドのベストセラー小説『ジャック・リーチャー』シリーズの9作目『ONE SHOT』をベースにしたサスペンス・アクション。監督は『ユージュアル・サスペクツ』『ワルキューレ』の脚本などで知られるクリストファー・マッカリー。
ある日、ピッツバーグ近郊の街で6発の銃声が鳴り響き、男女5人が狙撃される連続殺人事件が発生。警察の迅速な捜査で元米軍スナイパーのジェームズ・バーが容疑者として逮捕され、事件は解決したかに思えたが、バーは「ジャック・リーチャーを呼べ」とメモに書く。元陸軍の秘密捜査官だったリーチャーは2年前に除隊し、忽然と姿を消した男だった。だが、リーチャーが警察の前に姿を現わし、検事の娘で弁護士のヘレンと共に事件を調査。2人は事件に残された数々の不自然な点を洗い出していくが、しだいに彼らにも危険な影が忍び寄る。
※ネタバレしてます! ご注意を!
完全無欠でない主人公だからこそ魅力がある
正直、全米ではそれほどヒットしていないし、評論家の評価も良くも悪くもない感じだったし、いかんせん観たい気をあまり起こさせない邦題のせいで期待度が低くなり、鑑賞前はそんなにアゲアゲ状態ではなかった本作。公開前から「トム・クルーズの新たなシリーズ誕生!」とデカく出た配給会社の宣伝にもちょっと鼻で笑っちゃったし、「どうせ『コラテラル』のようなダークヒーローっぽいアクション映画でしょ?」とタカをくくってたら、いやあー、なかなかどうして面白いじゃないの、コレ!
原作は未読。原作ファンは、結末が違うとか映画版に対して色々ともの申したいらしいけど、一番多かった批判は原作と映画版のジャック・リーチャー像が全然違うということ。「ジャック・リーチャーって2m近くて体重が110kg以上もある大男でしょ? なんでトム・クルーズなのよ?」と、キャスティングが報じられた時から原作ファンから賛否の声が上がった。しかし原作者も監督も「原作のリーチャーの容姿に似た俳優なんかいるわけないじゃん、ムリムリ!」と完全に開き直り発言をしてますからねえ。
ボクは原作に思い入れがないので、コレといった違和感もなくトム・クルーズのジャック・リーチャーにすんなりと入ってけましたヨ。
ま、言うなれば「IMFから脱退し、チームを組まず単身で事件解決に挑む、かなりクールなイーサン・ハント」という感じ。なのでイーサン大好きなファンはリーチャーのことも好きになれるんじゃないかな? イーサンほど危機対処に対する機敏な動きはあまり感じられなかったけど、狙撃の腕とドライブ・テクと捜査力はイーサン以上。
トムのキビキビした動きとか、あのカッコよさは相変わらず健在しております(トムってホント、いい年の取り方してるよね )。
『ジャック・リーチャー』シリーズの原作では全部で17冊あり、日本ではまだ5冊しか翻訳化されていない。今回の映画版の原作は第9作の『ONE SHOT』(邦題:アウトロー)。なぜ1作目から順に映画化しなかったのかというと、監督いわく「ジャック・リーチャーという人間を知ってもらうためにはこの『ONE SHOT』が最も適していたから」なんだとか。なるへそ。
↓ちなみに原作者もカメオ出演してますヨ
で、このリーチャー、パスポートと歯ブラシぐらいしか所持しておらず、携帯やクレカ、PCは一切持たず足跡は残さない。
住居もなく、家族や恋人もおらず、元軍人である以外の情報は一切ないというアウトロー=流れ者でして、まさに神出鬼没な男。法や社会のルールに縛られず、悪をくじき、弱きを助ける陰のあるヒーローでもある。
まさに現代に甦ったウエスタン・ヒーローで、トムが西部劇に出たらこんな感じのヒーロー像になるのかなあ、と想像しながら観るのも一興(過去に『ヤングガン』にはカメオ出演してるけどね)。
こう書くと、あまり面白味のない完全無欠のヒーローだと思われがちだが、実はそうじゃないところがミソ。
犯人に仕立てあげられたジェームズ・バーに呼ばれた当初も「ヤツが殺ったんだろ? じゃ、あいつが犯人じゃん」と、事件の真相を探る気があまりないところとか、少女が殺されたことを悔やみ、怒りMAXになるところとかは、リーチャーのキャラクターそのものに深みを与えていて、ここは「トム、分かってるなあ」感が出てましたな。
また、『ナイト&デイ』ほどのギャグには走ってないけど、多少コミカルな部分もあり人間味もプラス。
例えば、少女の仲間の家を捜索している時に後ろから殴られて悶絶!の場面はちょっと笑えるし、敵もそのままリーチャーをボコボコにすればいいのに、しょーもないやり取りをしてる間に彼にハッ倒されちゃうというね。その時の「お前ら、何やってんの?」的なトムの拍子抜けした顔がまた笑えてきて、緊迫感をほぐすあの間の悪いギャグシーン
はキライじゃない。
極めつけは、ヒロインのヘレンが悪党に拉致られ、公衆電話で「彼女がどうなってもいいのか」と脅す敵に「好きにしろ」とガチャン、すぐにかけ直し、「気が変わった。貴様を殺す」と宣戦布告するシーン!
ここでも弱者を放っておけないリーチャーの生真面目ともいえる性格を巧みに描写している。
ヘレンを演じたロザムンド・パイクは個人的に好きな女優さんでして。『007/ダイ・アナザー・デイ』のボンドガールとか、『サロゲート』のFBI捜査官とか、『タイタンの逆襲』のアンドロメダ女王とか、決してすっごい美人というわけじゃないんだけど<奥さんにしたら自慢できるよね>的な美貌はあるよね。
無差別殺人の真犯人チャーリーを演じたのはジェイ・コートニー。やっぱりコイツはこういう殺人犯とか悪党キャラのほうが合ってる。改めてジョン・マクレーン・ジュニアって感じじゃないよねって思うわ。
そしてリーチャーの相棒になる老スナイパーは名優ロバート・デュバル。どう見ても銃なんて撃ちそうにない優しそうなこのお爺ちゃんが、実は最も腕の立つ射撃の名手だった!というギャップが面白く、クライマックス戦での盛り上げ役に一役買っている。
しかし、そのクライマックスで前触れもなしにリーチャーに協力するあのトートツな描写
には少々呆気にとられたが。振り返ればヤツがいるみたいな。 直前の射撃場のシーンで、もうちょっと含みを持たせた伏線を張ってくれてもよかろうに。
で、ラスボスのゼック役にドイツの名匠、ヴェルナー・ヘルツォーク監督を起用するとは、なかなかオツなことをやってくれるじゃないの。自分で指を食いちぎった壮絶な過去を語る場面とか、言いようのない<大物感>が画面から滲み出ており、表情ひとつで相手をビビらせるあの威圧感も素晴らしいデスわ。
ガタガタになっていく後半戦も含め、オールド・スタイルな演出で魅せる
正直、もっとアクション寄りかと思っていたが、基本は謎解きサスペンス。
原作では下巻で真犯人が明かされるのに対し、映画版では冒頭から真犯人の顔が出てくるのには驚いた。なので、<真犯人は誰?>ではなく、<なぜ5人の命が奪われたのか?><どうやってジェームズ・バーは犯人に仕立てあげられたのか?><事件に隠された真相は?>の3つの謎に挑むリーチャーの姿を観客が追う。
<なぜ5人が殺害されたのか?>については、ある1人を殺すことが目的で、無差別殺人に見せかけるためだけに他の4人が巻き込まれただけ、という何とも腹ただしい犯人の狙いが明らかになる。
殺された5人の人物像や背景も丁寧に描かれ(ここの描写がそれぞれの被害者に感情移入できるウルッとくる作りになっている)、そのうちの1人が事件と結びつくと<事件の全体像>が見え始める。そしてジェームズ・バーをよく知るリーチャーは<彼が犯人だったらこうする>という犯行パターンを予測し、バーが犯人でないことを証明していく。
リーチャーが名探偵ポアロ並みの推理力と刑事コロンボ並みの捜査力を駆使して解いていく展開は、サスペンス・ストーリーとしての推進力もあり、謎が見えてくるまでの面白さは保たれていたと思う。
ただ、謎解きのプロセスが甘いとか、真相がよくある企業の利権絡みで今一つという印象も。 全部、リーチャーが丁寧に解説してくれるのだが、良きパパと思われてた被害者の1人が実は不倫してた!なんていう憶測発言も飛び出し、ヘンな小話を挟み込んでくるリーチャーの行動心理が多少分からなくなるのも事実。
それよりも気になったのは、<仮にバーが犯人だとしたら・・・・>の“もしも描写”の入れ方がちょっと唐突だったので、観ている側は「は? 今のはどういうこと?」と若干困惑してしまうのも否めず。
また、カーチェイス後、リーチャーが車を捨ててバス停留所の乗客たちに紛れこみ、しかも他人のオッサンになぜか庇ってもらうトートツな描写にも、脳内で???がよぎるんだけど、あの場面は警察を快く思っていない労働者階級市民の結束力を描いているのかなあとか思ったり・・・・。フツーだったら「おまわりさん、ココにいるぞー!」でしょ。
で、前半~中盤は謎解きサスペンス的な展開と少々のギャグで楽しませてくれ、後半~クライマックスは不足していたアクションを盛ってくる。
ま、それも楽しいんだけど、残念なのが採石場での銃撃戦がどうも大味でチープなんですよ・・・・。
いきなりバックしながら車で突入するシーンはカッコよかったけど、おとり用の車なのかと思ったらリーチャーがガチで運転してるからこれまたビックリ。 正面突破よりもバックで突進してきた方が撃たれにくいとか、そういうプランあっての仰天行動なんだろうけど、それにしたって大胆不敵すぎね? 結局、車が岩に乗り上げちゃうから意味ないし。
しかもあんなに撃たれまくられてるのによく引火爆発しなかったなあ、とか余計なことを考えたり・・・・。
あれほど用意周到に動いていたリーチャーが、敵が狙い撃ちしているところに堂々と入ってきて銃撃戦を繰り広げるザツな演出に<なんだかなあ感>が漂い始める。
2人の決闘シーンもあんまし盛り上がってくれなかったのも残念だったし。無関係な人間をチョー身勝手な理由で殺した敵への<鉄槌下され感>も明らかに不足してるし、もっと惨い死に方とか見せてもよかったのでは?
例えば、ダンプカーで足を挟んで動けなくなったチャーリーにガソリンをブッかけて、ダンプカーに自動発火装置を装着。キャッシュが持ってきたナイフをリーチャーが彼に渡して「このナイフなら3分で足を切断して逃げることができる」 → チャーリー「そんなあ~!!!!」 → ドカーン! → 絶叫しながら焼死!という『マッドマックス』ふうな殺し方とかね。
仮に足を切ったとしても「よく頑張ったな。でも激痛で苦しいだろ。ラクにしてやるよ」と頭を撃ち抜くとかね。
絶対に許せない悪人にはそういう外道的な殺し方もするリーチャーのおぞましい裏の顔を描くことで<アウトロー>感が出せたような気もするんだけど。
ラスボスの最期も呆気ない。あんな無言で撃ち殺すんじゃなくて「これが殺された5人の遺言だ」とか言ってから殺すとかさ、もうちょっと気の利いた演出をしてほしかった。少し工夫するだけで<悪党絶命のカタルシス>も随分違ってくる。あとエマーソン刑事がなんで組織とツルんでいたのかも分からないまま死んじゃったし(原作では描かれているのかも知らないけど)。
クライマックスのテキトー感が否めないまま、話が終わってしまうのはホント、モッタイナイよ。
ま、残念だと思ったのはおもにクライマックス戦だけで、冒頭の狙撃シーンや前半のカーチェイス・シーンは抜群に良かった。
今回、予告編からして画的なハデさがあまりなかったし、「なんか地味なアクション映画っぽいな」と思った人も多いのでは? 実はボクもその一人でしたから。
しかし監督が目指したのは<70年代風アクション>。
つまり、この<地味感>は意図したもの。
カーチェイス・シーンにしても、『ワイルド・スピード』のようなとにかくハデに壊しまくりのスカッと系ではない。カット割り過多のチマチマした演出やスローだらけの昨今のアクション映画に嫌気がさしてたボクは、それらの<見せかけ空虚演出>をあえて封印し、腰を据えてガッチリしたオールドスタイルなアクションで見せてくれたのは高評価!!! ヘンに奇をてらったり、ドキュメンタリック感に頼らない演出は素晴らしいし、今回、アナモフィックレンズのワイドスクリーンで撮影することで映像の深みが増しているのもグッ!
1967年型シボレーシェベルSSをあんなにカッコよく映し出し、原作にはないカーチェイスをイキなカット割りで魅せた
マッカリー監督の才能を垣間見ましたよ。グッジョブです!
最近のアクション映画しか観てない若い人が「なんかカーアクションが物足りなかったよね」と言ってのをよく耳にするけど、いやいや、コレこそカーチェイスの真髄でしょ。よく「CGじゃない」とか「ハデさに欠ける」だけで評価下げちゃう人がいるけどさ、『ワイルド・スピード』のカーチェイスを基本で観るのもおかしいハナシで。 文句を言うのは『フレンチ・コネクション』と『ブリット』を観てからだ。(あと『マッドマックス2』もね!)
冒頭の狙撃シーンも犯人の息遣いだけでハンパない緊迫感を醸しているし、久々に<リアルな恐怖>を感じさせてくれた場面だった。 ここも『フレンチ・コネクション』の狙撃シーンをちょっと思い出したり・・・。
この2つのシーンに共通して感心したのは音響効果。
狙撃シーンでの耳をつんざくような射撃音や、体中に震えがくるジボレーの重低音サイコー!な凄味のあるエンジン音が画と完璧なまでに一体化していて、シーン効果が倍加。これこそ音響設備のいい劇場で体験するべき。いくら高価なホームシアターでも劇場で観る臨場感には敵わない。
また、音楽の使い方もいい。 静けさを保ち、それでいてサスペンスフルに満ちたスコアを聴かせてくれるのは、マッカリー監督とは前作『誘拐犯』からのコンビとなるジョー・クレイマー。派手に盛り上げようとせず、あくまでも映像の補助的な役目を担った音作りが素晴らしく、ハワード・ショアの『セブン』や『羊たちの沈黙』の音楽の雰囲気にとても似ている。You Tubeで聴いたけどサントラが欲しくなった。
70年代サスペンス・アクション映画ふうなアナログ演出を心がけたという監督の意図を汲めば、先述したクライマックス・シーンのカタルシス不足にも多少なりとも納得できる部分もある。確かに昔のハードボイルド系サスペンス映画ってスカッとしないまま終わることが多かったし。
バス内でリーチャーが立ち上がるあのエンディングなんて、これも70年代に量産されたカッコいい系ハードボイルド映画を絶対にリスペクトしている!・・・・・はずだ。
気になったのは、予告編にあって本編にはなかったシーン。
採石場で大爆発を起こすカットが一瞬だけ映ったが、本編には出てこなかった。 本作に限らないけど、本編に入ってないシーンを予告編を使うのはルール違反だと思うぞ(予告編用に作られた撮り下ろしカットとかは別にいいけどさ。例えば『ターミネーター2』の特報
とか)。映画会社は予告編にもちゃんと配慮するべき。
700円もするパンフレットは至ってフツーの作りなんだけど、評論家やライターのコラムやレビューは3つもいらない。特にN・K(映画ジャーナリスト)が書いたコラムの内容のなさはちょっと・・・・。 イントロダクションと被っているネタをただ羅列されても・・・・。これだったら、トム・クルーズ全作品の完全解説とか、原作の全シリーズ解説とか、もっと内容の濃いテキストを入れるべきでしょ。
ま、邦題の『アウトロー』には正直、違和感はあるものの、本作をシリーズ1作目とするならば、今回の出来には水準以上の満足感が得られたし、鑑賞前の低かった期待値が観終わった時は「ジャック・リーチャーの次の活躍も見たい!」ぐらいに変わってましたヨ。ルーズとマッカリー監督のコンビで息の長いシリーズにしてほしいと思う。
ロッテン・トマトでは61% というまあまあの評価で、世界興収では2億ドルを何とか超えたので続編製作も大いにあり得る。
本作以降は『ジャックと天空の巨人』や『ウルヴァリン:SAMURAI』の脚本を手掛けたマッカリー監督はトムとは『ワルキューレ』からの付き合いで、『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』の脚本にもノンクレジットで参加。今後も日本のライトノベルをトム主演で映画化するSF大作『All You Need Is Kill』の脚本、そして『ミッション:インポッシブル 5』の監督にもトムからご指名がかかっているとか。注目株の監督さんデスっ!
ココGOOD! 完全無欠ではない主人公像/現代劇に置き換えた西部劇的な演出/ロザムンド・パイク/ヴェルナー・ヘルツォーク/一定水準を保った謎解きサスペンス演出/カーチェイスの演出が秀逸/素晴らしい音響効果/音楽/続編にも期待できる
ココBOMB! 謎解きのツメが甘い/採石場でのアクションが大味/敵の死にざまが呆気ない/裏切り刑事のキャラがよく分からない/予告編にあったシーンがない
●満足度料金/1200円
『アウトロー』 75点
- アウトロー 上 (講談社文庫)/講談社
- ¥840
- Amazon.co.jp
- アウトロー 下 (講談社文庫)/講談社
- ¥840
- Amazon.co.jp
- Jack Reacher/La-La Land Records
- ¥1,653
- Amazon.co.jp